ネパール バクタプルにおける住居の断面構成に関する考察

 バクタプールにおける住居と住まい方の研究の第一段階として、調査区域内における住居の断面構成について考察を行う。

 バクタプールばかりではなく、カトマンドゥ盆地に点在するネワールの都市住居の特色の一つとして、レンガで構成された4〜6層の建物であることが挙げられる。このネワールの多層住居はレベル差を用いることによって興味深い空間構成をおこなっている。

 ネワールの都市住居についてはすでに日本国内でも研究がなされており、黒川賢一(京都大学)の研究では、ネワールの都市住居の基本構成が示されている(図1)。

 

図1 ネワール住居の基本的断面構成(黒川賢一氏の論文より)


 この基本構成をふまえた上で、ジェラ通りでの調査結果を照らし合わせたのが図2である。

○1階(地上階)

 ネワール住居の1階が多機能空間であることは様々に報告されている。多くの家は1階をチェリcheeriと呼ばれる倉庫として利用している。倉庫は小さな窓が付く場合もあるが、全く窓が付かないのがほとんどで、非常に暗く外気温に比べて冷えている。倉庫には穀物や藁などが置かれる。

 居室や台所が1階に配置されないのはネワール特有のけがれの概念によるものである。

○中間階

 概ね2階がデニグコタと呼ばれる個室、3階がチョタchotaと呼ばれる居間として利用されている。デニグコタの上にチョタがおかれる理由は、陽当たりの良い明るい空間を家族が集まる場所としているのと、その空間を外部に対して距離をおいた閉鎖的な空間にしたいためである。

○最上階

 ネワール住居では、台所が最上階にあるのが一般的である。ブギガルと呼ばれるこの部屋は、台所であり食堂でもある。今日では伝統的な切妻屋根を改造し、台所階上に増築を行う事例も見られる。

図2 調査対象地の断面構成(b:ブギガル台所、ct:チョタ居間、dn:デニグコタ寝室、crチェリ倉庫、sp:店舗)


■基本構成からの発展

 ジェラ通りの住居事例は、図1に示された基本的断面構成から発展したものも多く見られる。例えばNB14、NB16、NB23などの住居は一見すると多様で複雑な構成を持つように見える。

 図2における断面構成の類型を表1と照らし合わせたとき、断面構成の発展は居住人数と関わっていることが示される。ここではとくに寝室(dn、デニグコタ)と居間(ct、チョタ)に注目することにする。

◇寝室の増設

 まず、居住人口の比較的多い7人以上の事例を抽出する。これは、基本的構成では2階に配されるはずの寝室を複数階に持つ住居とほぼ一致している。多人数の就寝場所を確保するために、本来仕切りを設けないはずであった居間の階や、空気環境や温熱環境が悪く居住に適さない1階部分にまで寝室を増設していることがわかる。

◇居間の増設

 居間を増設している事例は寝室を増設している事例と比較すると少ない。居間を増設している事例が、例外なく寝室を増設していることから、居間よりも寝室の増設が優先されているのだといえる。

表1 居住人数と構成発展の相関


◇考察

 バクタプルにおけるネワール住居の基本構成が発展する理由の一つは、その特異な財産相続の方法によるものであると考えられる。

 ネワールの財産相続は、男兄弟が親の財産を完全に等分するというものであり、この原理は小さなものは食器から、大きなものは住居自体にまで適用される(図3)。住居を等分するとき、ネワールの彼らにとって重要なのは、横に広がる空間よりも、垂直にのびる空間である。

図3 調査事例にみる住居の分割相続(NB12とNB13の家長は男兄弟同士)

 その相続が繰り返されるうちに住居の接地面積は少なくなり、したがって家族あたりの床面積も減少してしまった。子供が産まれ、家族数が増加するとそれに対応するために寝室を増設するようになった。そして子供たちが結婚し、所帯を持つようになると、居間を増設することによって解決をはかったと考えられる。

 従来おこなわれていた縦方向の等分による相続は、敷地の細分化によってかなわなくなり、あらたに横方向で区切る方法を編み出したのだといえよう。

 今日ではバクタプル市内の観光地化がすすみ、住居を借家として貸し出して本人は別の場所に居住する事例(NB05)のほか、観光客向けのゲストハウス(NB01)や土産品の工房(NB10)に転化する動きも出てきている。


[参考資料]

BUILDING TODAY IN A HISTORICAL CONTEXT BHAKTAPUR NEPAL GIOVANNNI SCHEIBLER

ネワール集住地の空間構成原理に関する研究〜ハディガオンを事例として〜 黒川賢一(京都大学)1997

ネパールにおける住居・集落の構成原理に関する研究 -シェルパ族とタルー族の事例対比を通して- 梶原圭介(芝浦工業大学)2001


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